Tokyo
シャプール・プーヤン キュクロプスの疑念、⻄洋を見つめる
2023/11/18–12/23
東京画廊+BTAPは、11月18日よりイラン人アーティスト、シャプール・プーヤンの日本初個展 『Cyclopses in Doubt, Observing the West キュクロプスの疑念、⻄洋を見つめる』を開催いたします。多才なアーティストとして知られるプーヤンの作品は、ジェッダ・ビエンナーレ(サウジアラビア、2023年)、ヘイワード・ギャラリー(2022年)、ヴィクトリア&アルバート美術館(2021年)、ペラ美術館(トルコ、2020年)、ルービン美術館(アメリカ、2020年)、大英博物館(2017年)など、世界の美術館の展覧会や国際展で紹介されています。
シャプール・プーヤンは1979年にイスファハン(イラン)で生まれ、現在はロンドン、ニューヨー ク、テヘランを生活と活動の拠点としています。絵画、彫刻、陶芸に通じる彼の作品は、歴史、大国間のパワーゲーム、潜在する戦争の脅威などを主題とし、同時に、グローバルな緊急の課題を照らし出します。本展は、セラミック彫刻の新シリーズを通して、見えるものと見えないもの、光と影というような、二つの主題の間に分け入ります。これは最終的な答えを私たちに与えるためではなく、多くの示唆的な問いをもたらすための試みなのです。
粘土は実用的・装飾的な品物を作るためのメディウムには留まりません。縄文土器の精緻なデザインや粘土板に刻まれた楔形文字の叡智に見られるように、粘土は単なる機能性を超越するのです。それは人間の思考や創造性、革新性をとらえ、伝える容器となります。その意義は生死の双極に深く結びつき、文化と歴史を通じて共有されます。さらに重要なのは、粘土は創造者の思想を物質化し、抽象的知性に具体的形象を与えるということです。そうだとすれば陶器とはまさに、精神の真正な現れと言うべきものです。
シャプール・プーヤンの陶芸作品はこの豊かな鉱脈を引き継ぐものであり、「思考の彫刻」として機能します。本展の作品中でも、例えば、《Cross Maze 交差する迷路》や《Maze Tower 迷路の塔》は、光線が内部空間をどう進むかという不思議な問いを探求しています。職人的な技巧を凝らして、 シャプールは建築的外見の中に迷路のような構造を取り込んでいきます。外部の光が壁面に穿たれた窓から入り、この隠された迷路を巡る旅を始める――このようなシナリオをアーティストは想像して います。これは「ポスト=真実」時代のメタファーです。現実が政治の迷宮に入り込んで失われてしまうように、光は彫刻の「ブラックボックス」の中に消えてゆくのです。キュクロプスとはギリシャ神話に登場する一眼の巨人です。プーヤンの新シリーズでは、小さな窓がひとつ穿たれ、キュクロプス(単眼性)を表象しています。これは作家にとって、疑念に囚われつつも、外の世界を伺う姿勢を示しているのです。
今回の展示で特筆すべき刷新として、プーヤンが作品の一部として、鏡やカスタムメイドの台座を取り入れたことが挙げられます。これらの鏡は多面的な役割を果たします。鑑賞者は鏡によって隠された迷路を覗くことが可能になり、奥行きと幻像の感覚を増幅させます。また、専用の台座と組み合わされた彫刻は、既存の展示台に置かれた単なる作品としての役割を覆します。それらは我々を引き付 けて近くで観察するよう誘うのではなく、周りの空間と積極的に相互作用し、我々の空間認識を一変させるのです。
プーヤンの作品は、知的な深さだけではなく、その技巧性、とりわけ、セラミックの革新的用法において注目に値します。細部まで拘った職人的技巧は、素材・形態・色彩に関する広汎な実験と⻑期的 探求の成果であり、すべての作品に視覚的な喜びを与えています。プーヤンが試みているのは、現代陶芸の風景において、歴史的要素に新たな息吹を吹き込むことなのです。例えば、彼の作品に見られる滴の跡や滲みは、12世紀のカシャーン(イラン)で広く用いられた技術や様式から発想を得ています。
シャプールの主要作品は政治的な問題を扱っていますが、それとは対照的に、《The First Brick 最初のレンガ》はとりわけ間口の広い、多くの潜在的可能性を秘めた作品です。建築的諸要素はプーヤン作品における中心的な視覚モチーフおよび言語を構成しており、歴史、社会、権力、文化や物質的条件とさまざまに交差します。簡素なレンガや粘土の構造物は、多くの文明において人間が最初に造った家屋の材料であり、実際、人間関係や社会的枠組みの基礎となっています。シャプールがある建築的構造を創始する最初のブロックを制作するのは、それを通じて粘土のもつ意味を呼び起こし、この第一ピースの将来的拡張へとコレクターを誘うためなのです。
陶製彫刻に加え、本展ではイランの歴史的磨崖彫刻を描いた「消去された」絵画も展示いたします。 彫刻は1800年前の有力な王と政治家の姿を表現するものですが、プーヤンはその彫刻を細密に描写したのち、意図的に消してしまいます。この行為は、政治的権威の移ろいやすさと人為のはかなさを強調するものであり、空白のキャンバスと広大な時間には、微かな痕跡しか残されていません。
本展はシャプール・プーヤンの日本での初個展であり、現在制作中の他のシリーズの陶器やペインティングも展示いたします。また、初日11月18日(土)16時から、来日中のアーティストを囲んで オープニング・レセプションを開催致します。皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます。